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東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)237号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、審決を取り消すべき事由の存否について検討する。

1 取消事由(一)について

(一) 原告は、第二引用例記載のものは審決認定の技術内容に止まるものではない旨主張するので、この点について検討する。

成立に争いのない甲第四号証(実用新案出願公告昭四六―三一七八〇号公報)によれば、第二引用例記載の考案は船舶の艙口開閉装置に関するものであつて、その実用新案登録請求の範囲の記載は、「夫々を一枚の板で構成し一列に並ぶよう夫々の一辺を艙口開口に枢着した複数の艙口蓋、同艙口蓋の自由端に引起し用アイを介し着脱自在に取付けた複数の滑車と隔壁に取付けた複数の滑車、及びこれら滑車に架渡した一本の索より成り、任意若しくは全部の前記艙口蓋を連続的に開閉するようになしたことを特徴とする艙口開閉装置」(別紙図面(二)参照)であること、第二引用例記載の第2図には、艙口蓋側に設けた三個の滑車11……の一個に対して一個のバケツト付滑車を、滑車11……の他の二個に対し各二個ずつの滑車12……を隔壁側に設け、索14の一端が隔壁3側に設けられたバケツト付滑車13に固定されており、この索14をバケツト付滑車13及び滑車12……を介して索14の掛架装置である滑車11……に連続的に張架した構成が示されていること、第二引用例の考案の詳細な説明には「索条をウインチにより巻取るときは端の艙口蓋より順次上方に回動し艙口開口を開口する。」(同公報第二欄第一一ないし第一三行)と記載されていることが認められる。

右認定事実によれば、第二引用例には、船舶の艙口蓋開閉装置において、複数の並列に配置された蓋体を開閉する機構として、蓋体の一側にワイヤー掛架装置を、これの対向固定側にはワイヤー張架装置をそれぞれ適宜取着し、一端を固着したワイヤーをワイヤー張架装置を介してそれぞれのワイヤー掛架装置に連続的に張架すると共に、同ワイヤーの他端に巻取機を設けたものが示されているものと認めるのが相当であつて、審決の認定に誤りはない。

(二) 原告は、第二引用例に記載されているものは船舶の艙口蓋に関するものであるから、単に複数の並列に配置されているものではなく、水平面的に配置されているものであり、しかも、第二引用例におけるワイヤーの張架装置は該艙口蓋枢着側の上方位置にある隔壁に取着されていて、ワイヤーの巻戻しに伴う艙口蓋の自重により艙口を閉鎖し、ワイヤーの巻取りにより艙口蓋を回動させて艙口を開放する点に特徴を有するものであつて、この点を看過した審決の認定は誤つている旨主張する。

しかしながら、ある考案の進歩性の有無を判断するために、対比又は判断資料とすべき引用刊行物に記載された技術内容を認定するに当たつては、当該刊行物に記載された技術的事項をそのままの概念で把握し、あるいは実施態様にわたる細部のすべてを含めたものをその技術内容として把握しなければならないというものではなく、進歩性の有無が問われている考案との関係において、当業者が当該刊行物に記載されている技術的事項から上位の概念で一定の技術的思想を理解できると認められる場合、あるいは右技術的事項の一部分が進歩性の有無が問われている考案の構成要件に対応ないし相当する技術手段としての意義を有せず、右技術的事項の全体からみても細部に当たるものとしか評価できず、その部分を除外しても一定の独立した技術的事項を理解できると認められる場合には、その一定の技術的思想あるいは技術的事項を引用刊行物に記載された技術内容として認定することは当然のことであつて、何らこれを妨ぐべき事由はない。

ところで、前掲甲第四号証によれば、第二引用例には原告主張のような記載が存することが認められるが、その記載に係る技術的事項の部分は、本件考案の構成要件に対応ないし相当する技術手段としての意義を有するものではなく、第二引用例記載の技術的事項の全体からみて細部に属するものとみるべきであり、第二引用例の記載から右部分を除外したものも独立した技術的事項として把握しうると認められるものであるから、審決が、右部分を第二引用例記載の考案の技術内容として認定しなかつたからといつて何ら誤りはなく、原告の前記主張は採用できない。

以上のとおりであつて、原告主張の取消事由(一)は理由がない。

2 取消事由(二)について

(一) 原告は、本件考案は建築物部門に属する排煙連窓に係るものであるのに対し、第二引用例記載の考案は運輸部門に属する船舶の艙口蓋に関するものであつて、その属する技術分野を異にするから、本件考案の進歩性を判断するに当たり、第二引用例記載の考案をその判断資料とすることは許されない旨主張する。

しかしながら、本件考案における排煙連窓も第二引用例記載の考案における蓋体(艙口蓋)も共に、閉鎖された室と室外とを連通する部材である点で一致し、その開閉機構も、各窓・各蓋体の一側にワイヤー掛架装置を、これの対向固定側(本願考案においては枠側)にワイヤー張架装置をそれぞれ適宜取着し、一端を固着したワイヤーをワイヤー張架装置を介してそれぞれのワイヤー掛架装置に連続的に張架すると共に、同ワイヤーの他端にワイヤー巻取機を設けた点で構成上共通しており、また、窓あるいは蓋体の開閉作動をワイヤーの遠隔的操作によつて行う点でも差異がない。

そうすると、両機構は、その開閉対象体が窓であるか、蓋体であるかという点に相違が存するだけで、その機構自体は同一の技術に属するものであつて、技術分野を異にするものとはいえず、原告の右主張は採用できない。

(二) 次に、原告は、第二引用例記載の考案は、ワイヤーの巻取りにより艙口蓋を回動させて艙口を開放し、巻戻しに伴う艙口蓋の自重により艙口を閉鎖するものであり、したがつて、第二引用例記載の考案における艙口蓋ないし蓋体開閉機構と本件考案における排煙連窓の復帰(閉鎖)装置は全く相反する作用に基づくものであるから、第二引用例記載の蓋体開閉機構を本件考案のような排煙連窓の復帰(閉鎖)装置に応用することはきわめて容易に想到しうることではない旨主張する。

たしかに、第二引用例記載の蓋体開閉機構は艙口蓋の回動による艙口の開放をワイヤーの巻取り操作により行い、ワイヤーの巻戻しに伴う艙口蓋の自重により艙口を閉鎖するものであるのに対し、本件考案に係る排煙連窓の閉鎖はワイヤーの巻取り操作によつて行われるので、両者の閉鎖機構は相反する作用に基づくものであるということができる。

しかしながら、蓋体の開閉作動をワイヤーの巻取り操作によつて行うものとするか、逆に、ワイヤーの巻戻し操作によつて行うものとするかは、その蓋体の構造及び取付状態を含む当該閉鎖機構全体の構成あるいはその取扱い上の要求等の諸条件により適宜定められるべき事項であつて、右のような操作上の差異は、蓋体の開閉機構において本質的なものであるとはいえない。

そして、本件考案における排煙連窓の復帰(閉鎖)はワイヤーの巻取り操作によつて行われ、一方、第二引用例記載の考案における蓋体の開閉作動はワイヤーの遠隔的な操作によつて行われるものであるから、両者の開閉機構は、その窓あるいは蓋体の開閉作動をワイヤーの遠隔的操作によつて行うという基本的な着想においては相違するところがないということができる。

したがつて、原告の右主張も理由がないものというべきである。

(三) 更に、原告は、第三、第四引用例には審決認定のような記載は存せず、認定に係る技術は本件考案出願前公知あるいは周知ではない旨主張するので、この点について検討する。

(1) 成立に争いのない甲第五号証(実開昭四八―七六七三九号公開実用新案公報)によれば、第三引用例は、「ガラス窓、よろい窓、又はその類似物の開閉機構」の考案に関するものであるが、同引用例記載の図面(別紙図面(三)参照)には、(イ)一本の駆動用ケーブル1がガラス窓戸の取付枠上辺部に架設されていること(第6図)、(ロ)各ガラス窓戸毎に、一端を窓戸に連結した従動用ケーブル2が取付枠上辺部に取付けられたコネクタ3内で駆動用ケーブル1とその作動方向において噛合されていること(第1図、第6図)、(ハ)一本の駆動用ケーブル1は、遠隔的に設置された操作部7に連結されていること(第6図、第7図)がそれぞれ示されていることが認められる。そして、引用例記載の第7図によれば、右操作部7は、その外観からみてケーブルの巻取り、巻戻し用のケーブル巻取機であり、第5図によれば、並列状の三面の窓戸がいずれも開放状態にあることからして各ガラス窓戸は一斉に開閉するようにしたものであると認められる。

ところで、前掲甲第五号証によれば、前記駆動用ケーブル1は、その表面にスパイラル部(螺旋状突起部)を有していることが認められ、この点は本件考案におけるワイヤー5と形状を異にするが、右スパイラル部は、駆動用ケーブル1と従動用ケーブル2とをコネクタ3内で噛合せるために付設されたものであり(別紙図面(三)、第1図参照)、窓戸の開閉作動を巻取り、巻戻し操作によつて行うという機能面で評価した場合には、第三引用例における駆動用ケーブル1と本願考案におけるワイヤー5との間には実質的な差異はないものと認められる。

以上によれば、第三引用例には、複数の窓を一本のワイヤーの巻取り、巻戻しによつて一斉に開閉するようにしたものが記載されているものというべく、審決の認定に誤りはない。

原告は、第三引用例に記載されているものは、一般的なワイヤーではなく特殊なギアードケーブルが使用され、そのケーブルは一本のケーブルではなく、駆動用と従動用の二本のケーブルからなり、この二本のケーブルはスパイラル部の噛合伝達によつて各窓が開閉するものであり、両ケーブルの一端は固定することなく各端部を往復移動するなどの構成からなるものであつて、審決は、これが本件考案におけるワイヤー関連の構成とは異なるものであることを看過している旨主張する。

しかしながら、審決が第三引用例を挙示した趣旨は、複数の窓を一本のワイヤーの巻取り、巻戻しによつて一斉に開閉するようにした技術が本件考案の出願前公知あるいは周知であることを裏付けるためであつて、原告が主張するような開閉機構における特殊な技術的事項や細部の事項ではないから、審決が右の点についての認定をしなかつたからといつて誤りでないことは明らかである。

(2) 成立に争いのない甲第六号証(昭和一二年実用新案出願公告第七一四二号公報)によれば、第四引用例は、「乾燥室ノ高窓開閉装置」の考案に関するものであり、その登録請求の範囲は、「乾燥室ノ上部両側ニ設ケタル高窓ニハ夫々開閉窓戸(1)(2)ヲ蝶着シ該窓戸ノ下縁中央部外側ト内側トニハ夫々開戸用索条(3)(3′)ト閉戸用索条(4)(4′)トヲ結着シ基ノ開戸用索条ハ之ヲ室外ニ設ケタル数個ノ誘導車(5)ヲ介シテ室外下方ニ垂下シ其ノ下端ニ数個ノ懸止孔(6)ヲ有スル引手板(7)(7′)ヲ結着シ又閉戸用索条ハ之ヲ受桿(8)(8′)ヲ囲ラシテ室ノ内壁ニハシメ且ツ他ノ閉戸用索条ヲ連繋シ一条トナシテ屋外ニ導キ誘導車(9)ヲ介シ下方ニ垂下シ其ノ下端ニ懸止孔(10)ヲ有スル引手板(11)ヲ結着シ乾燥室ノ外壁ニハ上記各引手板ノ懸止孔ヲ懸止セシムル懸鉤(12)ヲ構成シテ成ル乾燥室高窓開閉装置ノ構造」(別紙図面(四)参照)であること、第四引用例の「実用新案ノ性質、作用及效果ノ要領」の項には、「本案ハ乾燥室ノ高窓ニ装置シタル開閉窓戸ニ引手板ヲ有スル索条ヲ結着シ其ノ引手板ヲ地上ヨリ牽引シテ窓戸ノ開閉度ヲ確実ニ且ツ任意ニ操作セシムベクナシタル考案ニ係リ」(同項第一、第二行)、「窓戸ヲ開クニハ各開戸用ノ引手板ヲ引下ゲ」(同項第一〇行)、「閉戸スルニハ(中略)閉戸用引手板ヲ引下グルコトニヨリ乾燥室ノ一側部ニ於ケル二個ノ開閉窓戸ヲ一時ニ閉戸シ得ルモノニシテ」(同項第一三、第一四行)と記載されていることが認められる。

右認定事実によれば、第四引用例には、複数の高窓をロープと誘導滑車を用いて遠隔的に操作することにより開閉するようにしたものが記載されているものというべく、審決の認定に誤りはない。

原告は、第四引用例に記載されているロープ(索条)は一本の索条ではないばかりか、開閉窓戸の個数と同数の開戸用索条と閉戸用索条をそれぞれ設けて、個別に引張ることにより各窓戸を開放し、または閉鎖するものであり、第四引用例記載の考案における誘導滑車は、本件考案におけるワイヤー張架装置が排煙連窓の開閉両方に機能するのと異なり、開戸用のものと閉戸用のものとを別個に必要とするのであつて、審決はこの点を看過している旨主張する。

しかしながら、審決が第四引用例を挙示したのは複数の高窓をロープと誘導滑車を利用して遠隔操作により開閉する技術が本件考案の出願前公知あるいは周知であることを裏付けるためであるから、審決が、ロープ(索条)の本数、その張架の具体的構造及び作動状況等原告主張の点を認定しなかつたからといつて誤りでないことは明らかである。

右のとおりであつて、第三、第四引用例には審決認定のような記載はなく、審決認定の技術は本件考案出願前公知あるいは周知ではない旨の原告の主張は理由がない。

以上の次第で、第二引用例に示されたような蓋体開閉機構を排煙連窓の復帰(閉鎖)装置に応用することは、複数の窓を一本のワイヤーの巻取り、巻戻しによつて一斉に開閉すること、及び複数の高窓をロープと誘導滑車を利用して遠隔操作により開閉することが従来公知あるいは周知である以上必要に応じて当業者がきわめて容易に想到できる程度のことであるとした審決の認定、判断に誤りはないものというべきであつて、原告主張の取消事由(二)は理由がない。

三 よつて、審決の違法を理由としてその取消しを求める原告の本訴請求は失当であるから、これを棄却することとする。

〔編註〕 本件考案の要旨は左のとおりである。

緊急時係止が解かれて一斉開放する排煙連窓1……1に於いて、各窓1側にワイヤー掛架装置2を、枠3側にはワイヤー張架装置4、4をそれぞれ適宜取着し、一端を固着したワイヤー5をワイヤー張架装置4……4を介してそれぞれのワイヤー掛架装置2……2に連続的に張架すると共に、同ワイヤーの他端にワイヤー巻取機6を設けて成る排煙連窓の復帰装置。

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